薫子さんと主任の恋愛事情
現実世界の男性に告白されたこともなければ、付き合ったこともない。いまだ二次元のキャラクターに恋しているし、でも本当の恋の仕方はわからない。自分自身に自信もなければ、八木沢主任に釣り合うとも思えない。
でも何故だか、どうしてかわからないけれど、『わかった』とうなずいてしまいたい自分もいて。心の中で矛盾したふたつの気持ちが、ぶつかり合っていた。
「そんなに深く考えるな。お試し的なつもりで始めればいいだろ? と言っても、俺はお試しで終わらせるつもりはないけどな」
左頬に当てている手で二度ほど撫でると、八木沢主任の手が離れていく。
「や、八木沢主任は彼女いないんですか?」
往生際悪く、今さらながらの質問をぶつける。
「いたら告白なんてするか。もう一年以上、薫子に片思い中だ」
「そ、そうですか……」
八木沢主任、これはどうやら本気らしい。
私の中の気持ちは、まだ八木沢主任にまっすぐ向いてはいないけれど。私の現実世界での恋愛のあれやこれを教えてもらうのは、八木沢主任でもいい?
素直な気持ちで自分の心に聞いてみると、心臓がトクンと音を立てた。
颯、ごめん。八木沢主任のことは、信用してもいいかなと思って……。
颯のことを裏切るつもりはないけれど、八木沢主任の言葉に素直になりたい自分もいた。