薫子さんと主任の恋愛事情
「なあ、薫子」
「は、はい」
「そんな顔、俺以外の男に見せるなよ」
「え?」
そんな顔って、どんな顔? あ! 化粧の剥がれたスッピンってこと? そうだよね。地味で中の下の顔をした彼女なんて、恥ずかしいだけだよね。
「みっともなくて、すみません」
自嘲気味にそう言って謝ると、大登さんが眉間にシワを寄せた。
「わかってないか。まあその辺りは、おいおい教えていくとして。マジで腹減った。さっさと支度して出かけるぞ」
触れている頬を、優しく撫でる。
「はい」
返事をして頷きそのまま立ち上がろうと顔を上げた瞬間、頬に柔らかいものが触れた。
「ホントは、こっちが良かったけどな」
親指が私の輪郭をなぞるように唇に触れられ、私は立ち上がろうと腰を浮かしたままの格好で固まってしまう。
「ごめん、やっぱ我慢出来なかったわ。おいおいとか言っといて、悪い」
「い、いえ……」
唇に比べたら頬なんてなんてことないのに、大登に触れられると身体が敏感に反応してしまう。
大登さんに支えられ立ち上がると、なんとなく恥ずかしくて背中を見せた。そんな私を見て大登さんは笑うと、ポンと頭をひと撫でして隣の部屋へ入っていった。