薫子さんと主任の恋愛事情
その表情を見た途端、ドクンと心臓が脈打つ。
こ、この現象は……。
颯と出会った頃は同じような現象に襲われて、ひとり悶えたものだけど。どうやら私は、大登さんの笑顔にも弱いらしい。
顔を見られたくなくてクルッと背を向けると、そのまま部屋のある二階へと駆け上がる。でも途中で「薫子ちゃん!」と誰かに呼ばれて階段を登る足をとめると、その声がした方へ振り返る。
「おばちゃんっ!」
声の主はアパートの大家さん、井澤のおばちゃん。どうやら車のドアの音に気づいて、外に出てきたらしい。
「帰ってきたら声かけてって言ったでしょ! ちょっと、こっちに来てちょうだい」
洗い物でもしていたのか、おばちゃんの手にはゴム手袋がはめられている。慌てて出てきたのかと思うと、おばちゃんのことを後回しにはできなくて。仕方なく階段を下りて、おばちゃんの家の方へと向かう。
「おい薫子、どこ行くんだよ?」
車の中で私が着替えるのを待っていた、大登さんが車から降りてきた。
おばちゃんと大登さん、ふたりに挟まれて大ピンチ!
でもそんな私を救ってくれたのは昨日彼氏になったばかりの大登さんで、井澤のおばちゃんに気づくと「任せておけ」と私の耳元で囁き歩き出す。