薫子さんと主任の恋愛事情
「なに?」
私の視線に気づいたのか、大登さんがこちらを見て微笑んだ。
「いえ、なんでもありません」
チラリと見ていたつもりが、いつの間にかじっと見入ってしまった。恥ずかしさを隠すため会社での堅苦しい感じで返事をすると、珍しく大登さんがため息をついた。
「まだ彼女二日目だから仕方ないけど、俺とふたりでいる時はもっとリラックスしてほしいな」
「リラックス……できるなら私だってしたい、です」
「カフェにいる時は、普段の薫子だったけどな」
「あ……」
言われてみれば、そうだったかもしれない。
店の雰囲気にご夫婦の優しさ、そして大登さんの美味しそうに食べる姿を見ていたら、肩の力が抜けたと言うか自然に振る舞えていた。
でも大登さんって、普段の私なんて知らないような……。
「大登さんは私のこと、どういう人間だと思ってます?」
「どういうって。仕事は真面目、人と関わることが苦手。でも颯の前のおまえは、自然な笑顔があふれる普通の女の子、だと思ってます」
なんて私の口調を真似て言うから、プッと笑いがこみ上げる。
「そうやって笑ってろ。あと、俺に気を使うことも禁止。ここは会社じゃないからな、ふたりでいる時は上司と部下とか歳の差も関係ない。付き合うってことはな、そういうことなんだぞ」
わかったか──
大登さんの優しい声と言葉が、スーッと身体に染みこんでいった。