薫子さんと主任の恋愛事情
カフェを出てから車で一時間半くらい走り到着したのは、海沿いの街の小さな水族館。展示の仕方がユニークともっぱらの噂で、休日ともなると行列ができると聞いている。
でも今日は土曜日だというのにそれほど混雑していなくて、すんなり駐車場に車を停めることができた。
「ラッキーだったな」
そのことは大登さんも知っていたようで、私に顔を寄せてそう言うと「大人二枚」とチケットを購入する。
「あ、お金……」
「いらない。同級生のグループ交際でもあるまいし、デートは男が払うって決まってるの」
「は、はい。ありがとうございます」
デートは男が払うもの……。そういうものなんだ。覚えておきます。
リアルにデートをするのは初めて。颯と何回かしたことがあっても、所詮ゲームの中でのこと。リアルを体験してしまえば、その違いに驚くことばかり。
「勝手に決めたけど、水族館で良かったか?」
「はい。ここは一度行きたいなって思ってたので」
「そうか」
嬉しそうな大登さんの顔に胸が高鳴る。
「じゃあ、中はいるぞ」
そう言って手を差し伸べられて、どうしたものかと少し迷いながらもその手に自分の手を重ねた。