薫子さんと主任の恋愛事情

「やればできるじゃないか。はぐれないように、ちゃんと握れよ」

一本ずつ指と指を絡ませてしっかり繋がれた手が、緊張からじわりと汗ばんできて、手にばかり意識が集中してしまう。

せっかく気になってた水族館に来てるのに……。

「なあこの魚、うまそうだよな」

「……え? あ、うん、そうですね」

「どうした? 心ここにあらずって感じだけど。もしかして、これが原因か?」

大登さんはふっと笑うと、繋いでいる手を私の目の位置まで上げた。

「な、なんで」

「手から伝わってくるんだよ、薫子の鼓動が。面白いくらいドキドキしてて、途中で吹き出しそうになった」

「うそ……」

大登さんにバレてたなんて、恥ずかしすぎ。こんなことなら、迷った時点で繋がなければよかった。

今からでも遅くないと手を離そうとしても、大登さんの指がかっちりと絡まっていて動かすことさえできない。

「大登さん、わざとやってますよね?」

「わざと? それは心外だなぁ。俺は薫子と、手を離したくないだけ。こう見えて、俺も結構ドキドキしてるんだぞ」

大登さんはそう言うと、私を見下ろす。その顔が少し赤いのは照れてるせい?

意外な大登さんの一面を見て、私の心臓はその鼓動をまた速めた。



< 84 / 214 >

この作品をシェア

pagetop