薫子さんと主任の恋愛事情
「やればできるじゃないか。はぐれないように、ちゃんと握れよ」
一本ずつ指と指を絡ませてしっかり繋がれた手が、緊張からじわりと汗ばんできて、手にばかり意識が集中してしまう。
せっかく気になってた水族館に来てるのに……。
「なあこの魚、うまそうだよな」
「……え? あ、うん、そうですね」
「どうした? 心ここにあらずって感じだけど。もしかして、これが原因か?」
大登さんはふっと笑うと、繋いでいる手を私の目の位置まで上げた。
「な、なんで」
「手から伝わってくるんだよ、薫子の鼓動が。面白いくらいドキドキしてて、途中で吹き出しそうになった」
「うそ……」
大登さんにバレてたなんて、恥ずかしすぎ。こんなことなら、迷った時点で繋がなければよかった。
今からでも遅くないと手を離そうとしても、大登さんの指がかっちりと絡まっていて動かすことさえできない。
「大登さん、わざとやってますよね?」
「わざと? それは心外だなぁ。俺は薫子と、手を離したくないだけ。こう見えて、俺も結構ドキドキしてるんだぞ」
大登さんはそう言うと、私を見下ろす。その顔が少し赤いのは照れてるせい?
意外な大登さんの一面を見て、私の心臓はその鼓動をまた速めた。