薫子さんと主任の恋愛事情
こんなのもらっても困るだけだよね。
そう思っていたのに、大登さんは意外にも嬉しそうな顔をすると少し何かを考えてからズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「なあ、薫子が持ってるピンクのキーホルダー、ちょっと貸して」
「あ、はい。どうぞ」
大登さんが何をするのかわからないまま、ピンクのキーホルダーを手渡す。と同時に大登さんのポケットから出てきたのは革製のキーケース。その中からひとつ鍵を外すと、それを私のピンクのキーケースに付け替えた。
「え? あの、それは……」
どこの鍵ですか? そう聞こうとした私の口を、大登さんの大きな左手が塞ぐ。
「これは俺の家の鍵」
そう言い終えると、私の口を塞いでいた手がそのまま頭の上に移動する。
「それ薫子にやるから、いつでも来ていいぞ」
子供みたいにイタズラっぽい顔を近づけると、柔らかい唇を私の頬に当てた。冷たい風で冷えていた頬が、一瞬で熱を帯びる。
「大登さん、こんなところで恥ずかしいです」
周りに人はいるけれど、特に私たちふたりに注目している人はいない。でもやっぱり気になって、大登さんからひとり分座る位置をずらす。でも大登さんも一緒について来ては、身体を私にピタッとくっつけた。