薫子さんと主任の恋愛事情
そんなことを数回繰り返すと短いベンチのこと、すぐに端にたどりついてしまう。バランスを崩した私の身体はベンチから落ちそうになるも、大登さん腕がスッと伸びてきて間一髪セーフ。
「俺から逃げられるとでも思ってるのか?」
大登さんは右の眉をピクッと上げると、キャラにないキザなセリフを吐く。そんな仕草が面白くてふふっと笑うと、大登さんも一緒に笑い出した。
「面白かったか?」
「はい」
「それは良かった。でも逃げられないのは本当だぞ。俺はどんなことがあっても、薫子を手放したりしないから」
表情を少し真面目なものにすると、私の目の前にキーホルダーをかざす。それを受け取ると、大登さんはふと表情を緩めた。大登さんの顔を見ていたら、自分に掛かっていたブレーキが外れる音が聞こえた。
「いつでも大登さんの家に行ってもいい?」
「ああ」
愛おしそうに見つめる大登さんの瞳に、胸がキュンと締め付けられる。
「なんなら一緒に住んでもいいぞ」
「そ、それは、ちょっと……」
ドキドキしながら慌てて答えると、ハハハと大笑いされてしまった。
でもそんな日がいつか来たらいいなぁ……と思ったのも本当で。大登さんの家の鍵が付いたキーホルダーを見て、少しだけ顔がニヤけてしまう。