姫は冷血王子の所有物
「さっきから何、百面相してるんだ?」
部長は不思議そうに、こちらに体を傾けて、私の顔を覗き込む。
タクシーだから、距離がただでさえ近いのに、そんなことされたら、もっとだ。
ドキンッ。
心臓がバカみたいに鳴りだして、顔が高揚する。
(そんな色っぽい目で見つめないでよぉ)
って心の中で嘆きつつ、部長から目を逸らす。
「なぁ、おい。」
そんな私の気持ちなど知らず、私の肩に手を置き、くるりと自分の方へ私の体を向けようとする。
「や、やめてください。部長。」
「なんで?」
(恥ずかしいからに決まってるでしょうがっ!!!)
って毒づいてみるも、そんなのも心の中でしか言えない。
臆病?
違う。一応上司なんだから、経緯を払ってるんだよ、私は。
誰に言い訳してんだと後から思ったけど、今はそれどころじゃない。
「も、もうすぐ私の家なので、お先に失礼しますね。今日は本当にありがとうございました。」
見慣れた街の風景が目に飛び込んできて、慌ててそう言い逃れできた。
(よかった。これで無事に家に帰れる。)
そんな私の考えは…甘かった。