泣き顔に甘いキス
そして気まずい雰囲気だけが残っている私と滝沢くん。
誰も人が寄り付かないこの踊り場はシーンとしていて、先ほどの男の名残など少しも残していない。
「………御村さん、なんか…色々ゴメン」
そんな静かだった空気を、滝沢くんが壊した。
「……ううん」
私はただ首を振って小さく嘆くだけ。
あれだけ抱いていた嫌悪感や多少のイラつきも、金髪の彼によって全て消し去られてしまった。
「………さっきの人、知り合い?」
滝沢くんに問いてみる。
金髪の彼の存在が、気になって仕方がない。
「………あいつ…類とは中学が一緒だったんだ」
でも滝沢くんは直ぐに口を閉ざしてこれ以上語ろうとはしなかった。
私も、もうこれ以上は聞くことはできなかった。
「……そっか」
この呟きで、どちらともなくこの場を去ろうと足を進めた。