これが私の王子様
しかし和人の耳に、彼女達の悲鳴が届くことはない。
普段では感じることのない緊張感によって、周囲の音が耳に入らないからだ。
いや、唯一耳に届くのは、自身の心音くらいだろう。
屋上で、暫しの間待つ、
すると蝶番の軋む音と共に、ドアが開かれた。
「ゆ、結城君?」
「急に、御免」
「い、いえ」
「ちょっと、話しが……」
「話し?」
珍しくオドオドとしている和人にゆかは首を傾げるが、クッキーのことを思い出し、ゆかの顔が紅潮しだす。
和人と視線を合わせられなくなったのか、俯くとそれについての話か尋ねる。
「クッキーは、勿論美味しかった」
「ほ、本当ですか!?」
勿論、和人が食べ物のことで嘘を付くことはない。
はじめて異性の為に作ったクッキーで、それを美味しいと言ってくれた。これ以上嬉しいことはなく、心の中に温かいモノが広がっていく。