これが私の王子様

 しかし和人の耳に、彼女達の悲鳴が届くことはない。

 普段では感じることのない緊張感によって、周囲の音が耳に入らないからだ。

 いや、唯一耳に届くのは、自身の心音くらいだろう。

 屋上で、暫しの間待つ、

 すると蝶番の軋む音と共に、ドアが開かれた。

「ゆ、結城君?」

「急に、御免」

「い、いえ」

「ちょっと、話しが……」

「話し?」

 珍しくオドオドとしている和人にゆかは首を傾げるが、クッキーのことを思い出し、ゆかの顔が紅潮しだす。

 和人と視線を合わせられなくなったのか、俯くとそれについての話か尋ねる。

「クッキーは、勿論美味しかった」

「ほ、本当ですか!?」

 勿論、和人が食べ物のことで嘘を付くことはない。

 はじめて異性の為に作ったクッキーで、それを美味しいと言ってくれた。これ以上嬉しいことはなく、心の中に温かいモノが広がっていく。
< 110 / 211 >

この作品をシェア

pagetop