これが私の王子様

「……御免なさい」

「ほら、謝らない」

「は、はい」

 こんな調子で父親と会って大丈夫なのか心配になってしまうが、約束が約束なので断ることはできない。

 何とかゆか自身に頑張ってもらって、乗り切らないといけない。それに危なくなったら連れ出せばいいと、和人は考える。

「あっ! 次の授業は、体育だった。準備をしないといけないから、俺はこれで。急に呼んで、悪かった」

「マラソンですか?」

「そうだけど、何?」

「な、何でも……」

 何か言いたそうな雰囲気であったが、ゆかはそれを口に出すことはしない。

 ただ携帯電話を両手で握り締め、和人に向かい深々と頭を垂れる。

 そして駆け足で、立ち去ってしまう。

 ゆかの突然の行動に和人は、肩を竦める。

 だが、彼女を責めることはしない。
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