これが私の王子様

 しかしこれは夢でも幻でもなく、正真正銘の現実。

 その証拠に心臓が激しく鼓動し、何とも表現し難い緊張感が付き纏う。

 これが一体どのようなことを表しているのかわからず、ゆかは戸惑う。

 時間の経過と共に、膨れ上がっていく何か――

 それを打ち消すかのように、ゆかは黒板に書かれている文字を真剣に書き写すことにした。

 これによって多少は気が紛れるが、作業が終了すれば先程の言い知れぬ‘何か’が、顔を覗かせる。

(ど、どうしよう)

 これについて詩織に尋ねれば適切な回答を得られそうな雰囲気であったが、何となく聞き辛い。

 それにこのことについて尋ねたら「笑われるのではないか」という思いも存在していた。

(早く、授業は再開しないかしら)

 ゆかの必死の思いが天に通じたのか、和人を応援していた女子生徒達が大人しくなる。

 どうやら和人がゴールをしたのだろう、立ち上がっていた生徒達は椅子に次々と腰を下ろす。

 これで授業が再開できると、担当教師は安堵の表情を浮かべていた。

 そして閉じていた教科書を開くと、そこに書かれている内容を説明していく。

 と同時に、黒板にも文字が書かれはじめた。
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