これが私の王子様
スーパーの前で待っていると、一台の黒塗りの車が停車する。
ゆかが買い物をしていたスーパーは、庶民的で特売を定期的に行う「主婦の味方」の店。
なので、この高級車は目立ってしまう。
多くの者が車を見ては、ひそひそ話を行う。
そして、どのような人物が乗っているのか想像する。
この現象は、ゆかがスーパーに来た時も発生した。
乗っていたのは、ごく普通の女の子。
そのギャップに驚く者は多く、どうしてこのようなスーパーに買い物に来ているのか、あれこれ想像を巡らす。
どのようなことを言われていたのかゆかは耳にしているので、車に近付くのを躊躇ってしまう。
しかし和人の実家がどこにあるのか知らないので、この車に乗って連れて行ってもらわないといけない。
なかなか乗ろうとせず、ゆかがオドオドとしていると、運転席から四十代後半の男が降りて来る。
彼は結城家の専属運転手で、名前は藤浪勤(ふじなみつとむ)。
雅之が乗る車を運転するのも、彼であった。
「お乗りに、ならないのですか?」
「の、乗ります」
「では、どうぞ」