これが私の王子様
美味しい料理を作って、褒められたい。
その気持ちが心の中に湧き出し、ゆかの調理の手を速める。
無駄のないその動きに和人は感心してしまうが、邪魔になってはいけないと先程の定位置に戻り、ゆかの調理姿を眺める。
早く食べたい。
だが、せかしてはいけない。
祖母が料理を作ってくれている時は、勉強をして気を紛らせていたが、今は勉強道具を持っていないので気を紛らわす術はない。
その場で待ち続けるのは、ある意味で生殺し状態。
いい香りが漂う。
その香りに、食べたばかりの和人の胃袋が反応を示す。
彼にとってあれだけでは物足りなく、消化も早い。
刹那、空腹を知らせる音が周囲に響き渡る。
「ゆ、結城君」
巨大な音に、ゆかの手が止まってしまう。
ゆかは皿の上に切った野菜を載せると、これを食べれば少しは空腹の足しになると、差し出してくる。
ゆかの気遣いに和人は、申し訳なさそうに頭を垂れた。