これが私の王子様
「で、例の本を」
「わかっています」
「じゃあ、明日」
「はい」
和人は軽く手を振ると、窓を閉める。
その一拍後、車が出発する。
暫く車を見送っていると、急激な倦怠感に襲われる。
和人と別れたことによって緊張感から解放されたからだろう、しかしそれ以上に自分でも信じられない一日に夢ではないかと錯覚する。
だが、これは夢ではなく現実。
その証拠に、身体が小刻みに震えていた。
学校一の王子様の実家に行った。
そこで、料理を作る。
そして、美味しいと褒めてくれた。
それだけではなく、趣味の話でも盛り上がった。
一度に訪れた幸福に、ゆかはその場から動けないでいた。
恋愛経験のないゆかにとって、これらの出来事の衝撃は大きい。
まるで、良くできた恋愛小説の主人公になったような感覚を覚える。
と同時に、異性相手にあれだけ喋れた自分に驚く。