これが私の王子様

 ゆかは画面に微笑を浮かべると、ベッドに携帯電話を置く。

 そして腰を上げ向かったのは、本棚。

 そう、和人との約束の本を探さないといけない。

(あの本は……)

 綺麗に並べられている、背表紙を眺める。

 これもまたゆかの性格が反映しているのだろう、全ての本に埃が被っておらず、殆ど日焼けもしていない。

 定期的に掃除をしている証拠で、この本をどれだけ大切にしているかわかる。

(あっ! これこれ)

 ふと、一冊の本を手に取る。

 表紙に書かれているのは「魔法使いの冒険」で、題名の通り魔法使いの男の子が活躍する話だ。

 久し振りに読みたくなったのだろう、その小説を手にベッドに腰を下ろすと、ページを捲っていく。

(懐かしい)

 文字を読み進めるだけで、この話がどのようなものだったか思い出す。

 男の子は一流の魔法使いだが、だからといって何でも万能にこなすわけではなく、様々な苦労をし、それを乗り越えていく。
< 171 / 211 >

この作品をシェア

pagetop