これが私の王子様

 だから、皆が体験している大半の出来事を体験したことがない。

 それを羨ましいと思っても、口にはできない。

 言ったところで聞いてはくれず、それどころか逆に言い返されてしまう。

 しかし、土日のことはきちんと言わないといけない。

 だから詩織のメールの通り、嘘を付く。

「今度の土日、詩織と出掛けようかと……」

「詩織? ああ、新しい学校の友達か」

「お買物に行くの」

「遠出か?」

 それについて、ゆかは即答できない。

 和人の実家の場所は連れて行ってもらったので大体はわかったが、彼が現在暮らしているマンションはどこにあるのかわからない。

 それでもきちんと行く場所を伝えないと、父親に言われてしまう。

 そのことがわかっているからこそ、ゆかは適当に「隣町」と、口にする。

「隣町か」

「い、いけない?」

「遅くならないのならいい」

「大丈夫」
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