これが私の王子様

「それならいい」

 特に怪しまれることなく了承してくれたことに、ゆかは安堵する。

 そんなやり取りをキッチンで聞いていたゆかの母親、亜由美(あゆみ)は夫に「高校生なのに、ちょっと厳し過ぎる」と、注意する。

「高校生だから、尚更だ」

「ほんと、あなたは昔から……」

 夫の過保護っぷりに、亜由美は呆れてしまう。

 そして、夫の高校時代の出来事を口にする。

 部活に明け暮れ、空が暗くなってから帰って来た。

 更に、部活が休みの日は、友達と一緒遠くへ出掛け、これまた遅い時刻に帰って来たという。

「あなたもそうしていたのだから、少しはゆかの門限も緩めてあげないと。友達とも、遊べないわよ」

「ゆかは女の子だ」

「わかっていないわね」

 強情とも取れる夫に、亜由美は肩を竦めてしまう。

 夫婦関係は良好なのだが、ゆかのことに関して話をすると、いつも仁志がムキになってしまう。

 ある意味、子離れできない父親といっていい。
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