これが私の王子様

 差し出された品物にゆかは頭を振ると、これを受け取ることができないと断る。

 ゆかが受け取ってくれないことに和人は「そう」と一言呟くと、何処か不満そうにビニール袋に仕舞った。

 その後、二人は他愛ない会話――というより、一方的に和人が質問するかたちで会話が進められていく。

 それらの質問にゆかは戸惑いつつも、丁寧にゆっくりと答えていくのだった。

 そろそろ質問に答えるのも限界になった頃、目の前に目的の駅が見えてくる。

 そのことを和人に知らせると、もっとあれこれと聞きたかったのだろう「ついたのか」と、小声で囁く。

 それでも仕方ないとばかりに肩を竦めると、ゆかと一緒にいられて面白かったと伝える。

「わ、私も……です」

「最初は菅生に無理矢理ってかたちだったけど、話して水沢さんのことが少しわかったような気がする。で、クッキーの件よろしく。あれだけの料理を作れるのだから、味に期待しているから」

「は、はい」

「じゃあ、明日」

 それだけ言い残すと、和人はマウンテンバイクに跨ると颯爽と走って行ってしまう。和人の後姿を暫く眺めていたゆかだったが、急に現実に引き戻されたのだろう盛大な溜息が漏れる。
< 50 / 211 >

この作品をシェア

pagetop