これが私の王子様
数分後、三十代後半の数学担当の教師が教室に入って来る。
見た目は素敵な男子教師だが、詩織の話ではこの教師の授業は難しく、尚且つ厳しいことで有名。だからだろう、生徒達は静かに授業の開始を待つ。
しかし運が良かったのは、ここまで。
何と今日、抜き打ちテストが行われたのだ。その準備の為に、数学の教師の到着が遅れた。
勿論、突然のテストに生徒達は一斉に不満たっぷりの声音を発するが、生徒達の反論が受け入れられることはない。
無情にもテスト用紙が配られ、この問題を三十分で解くように言われる。
事前に、聞いていれば。
勉強していなかった。
などなど、口々に言葉が発せられる。
だが、教師は「そんなの知らない」と言わんばかりの表情を浮かべながら、椅子に腰を下ろす。ゆかもまた、抜き打ちテストに驚いている一人。
数学は得意な方ではないので、一問目から詰まってしまう。それでも時間を掛けて考えれば、何とか正しい回答を導き出すことができた。
一方、詩織はゆかより苦労していた。彼女の得意教科は体育で、それ以外の教科はからっきし。
数学――特に公式が苦手なので、名前を書いてから全くシャーペンが動かなかった。