これが私の王子様

 彼女の誘いにゆかはコクコクと頷くと、お手製の袋に入れてあるエプロンを手に詩織の後を追った。




「ゆかのエプロン、可愛い」

「そうかしら」

「熊のアップリケでしょう」

 詩織が指差す方向にあるのは、デフォルメされた熊。他の生徒は真新しい無地のエプロン。

 それにストライプ、それにドット模様などが多いので、熊のアップリケのエプロンは目立つ。しかしこれは昔から使っているエプロンなので使い易く、尚且つお気に入りといっていい。

「クッキー、作れる?」

「うん。何度か、作っているから」

「私、料理って苦手」

「いつもどうしているの?」

「適当に作って、適当に仕上げ……」

 と言いつつも、いい思い出がないのだろう表情が強張っている。すると詩織がゆかの顔を凝視すると、美味しいクッキーの作り方を教えてほしいと頼む。

 どうやらいつも失敗してばかりいるので、今回はきちんと作り方を覚え、馬鹿にしている生徒を見返したいという。

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