これが私の王子様
「そこまで言うのなら……」
「有難う」
「その前に、詩織の腕前を見ないと」
「驚かないでね」
「そんなに酷いの?」
それについて、詩織は何も答えようとしない。沈黙を続けている詩織にゆかは「相当、酷いのかも」と、予想する。
家庭科担当の教師は、五十代前半のベテラン。エプロン姿というより割烹着姿の方が似合いそうな、中年女性だった。
クッキーの材料は事前に学校側で用意しているので、それを使い生徒達が各々作る。
教師の合図の後、大半の生徒が仲のいい同士グループとなって、お喋りしながらクッキーを作っていく。現在、この授業の中で一番緊張しているのは詩織だろう、材料を図る手が覚束ない。
いや、覚束ないというか、どちらかといえば大雑把。
詩織の性格が前面に出ているやり方に「これだから、失敗するんじゃ……」と心の中で呟くと、もっと落ち着いてやった方がいいとアドバイスする。