これが私の王子様

 途切れ途切れに語る詩織に、ゆかは先程の大雑把な計量の仕方で、彼女がどうして料理が苦手なのか理解する。

 要は「細々とした作業が嫌い」という、なんとも詩織らしい答えだ。

「ゆかと結婚する人、幸せね」

「そうかしら」

「だって、料理上手よ。美味しい料理を毎日食べられるなんて、これ以上の幸せはないわよ」

 それについて、ゆかは即答を避ける。

 ただどこか思いつめたような表情を浮かべつつ、指定の温度まで上がったオーブンの中にトレイを入れていく。

「昔……ね、私ってお嫁さんには最高だけど、彼女では物足りない……って言われたことがあったの。だから詩織にそう言われると、ちょっと……別に、詩織が悪いってことじゃないの」

「それって、最悪じゃない。そういう言い方をするってことは、都合のいい女がほしいってことよ」

 彼女の時は、自分を満足させてくれる女の方がいい。

 しかし結婚をしたら、家事や仕事をマルチにこなしてくれる女がいい。それは、駄目男の都合のいい条件――と、詩織は鼻で笑う。

< 68 / 211 >

この作品をシェア

pagetop