これが私の王子様
途切れ途切れに語る詩織に、ゆかは先程の大雑把な計量の仕方で、彼女がどうして料理が苦手なのか理解する。
要は「細々とした作業が嫌い」という、なんとも詩織らしい答えだ。
「ゆかと結婚する人、幸せね」
「そうかしら」
「だって、料理上手よ。美味しい料理を毎日食べられるなんて、これ以上の幸せはないわよ」
それについて、ゆかは即答を避ける。
ただどこか思いつめたような表情を浮かべつつ、指定の温度まで上がったオーブンの中にトレイを入れていく。
「昔……ね、私ってお嫁さんには最高だけど、彼女では物足りない……って言われたことがあったの。だから詩織にそう言われると、ちょっと……別に、詩織が悪いってことじゃないの」
「それって、最悪じゃない。そういう言い方をするってことは、都合のいい女がほしいってことよ」
彼女の時は、自分を満足させてくれる女の方がいい。
しかし結婚をしたら、家事や仕事をマルチにこなしてくれる女がいい。それは、駄目男の都合のいい条件――と、詩織は鼻で笑う。