これが私の王子様
詩織の話に、以前のクッキーには何を投入してしまったのか――と、あらゆる意味で恐怖心を覚える。
しかし聞く勇気がなかったので、ゆかはそのことを聞かないままにしておいた。
「で、クッキーだけど……」
「お願いします」
「こうやってリボンの色が違うのだから、間違えることはないわ。後は適当に理由を付けて、押し付けるわ。といって、昼に堂々と渡すわけにはいかないから、放課後でいいかしら」
「お昼って、やっぱり……」
「集まるでしょうね。ほら、周囲を見ればわかるでしょ。皆、目付きが血走っていて……怖いね」
詩織の指摘通り、殆どの生徒が鬼気迫る表情を浮かべていた。これを和人に渡して印象を良くしようと誰もが考えているらしく、少しでも目立つようにとラッピングに熱を入れていた。
大喧嘩にまで発展しないが、あちらこちらで小規模の対立が発生する。誰が何を取ったとか、使おうとしていた物を先に使われてしまったとか。
喧嘩の内容が小学生以下で、同じ高校生とは思えないほど幼稚。案の定、家庭科の教師が呆れており、手を叩きながら落ち着くようにと諭す。