これが私の王子様
(あれ?)
ふと、人の気配を感じ取る。
ドアを開け、真っ先に確認したのは玄関に置かれている履物。綺麗に揃えられている赤い鼻緒の草履は、勿論見覚えがあった。
そう、部屋の中にいたのは和人の祖母。
名前は、結城ハナ。
一人暮らしをしている孫を心配し、時折このように様子を見に来ているのだ。尚且つ、部屋の掃除や調理も作ってくれる素敵な祖母。
「婆ちゃん」
「あら、お帰りなさい」
温かく出迎えてくれたハナは、先程まで掃除を行っていたのだろう、着物の上から白い割烹着を纏っている。それに頭には同じく白色の手拭いが巻かれ、手にははたきが握られていた。
「来るなら、連絡してほしかったよ」
「連絡しないと、いけないことがあったのかしら」
「そういう訳じゃないよ。婆ちゃんが来ているとわかったら、何か菓子を買ってこようと……」
孫の気遣いに、ハナは口許に手を当て笑いだす。
ハナにしてみれば自分に気を使うより、もっと身の回りの方に気を使ってほしいという。現に掃除を行う前は、散々な状態だったと話す。