読心女子≠恋愛上手<お悩み二乗はπ
第10話

 帰宅後、部屋着に着替えることもなく自室のベッドに横たわると頭を抱え、先の件を振り返る。里菜の告白と失恋。孝太の告白と連続イベントにより、愛美のキャパシティーは完全にオーバーとなる。知世の告白がどうなったのかも気になるが、連絡がない以上こちらから聞くのも憚られる。
(今日がバレンタインだからって、こんなにも身近で告白イベントを乱発されると正直いっぱいいっぱいだ。知世から連絡がないのが救いだけど、これ以上悩みが増えると倒れそう……)
 大きな溜め息を吐き寝転んだまま窓の外に目を向ける。天気予報でも確認済みだったが、今日の寒さは今年一番ということもあり、細雪が見て取れる。
(こんな日に失恋しちゃったら、身も心も凍えそう。里菜先輩や相楽君、知世はどんな気持ちでこの雪を見てるんだろうか……)
 複雑な心境と雪景色からくる寒さを覚えると急に心寂しくなり、ふと啓介のことを頭に浮かべる。
(この辺は雪が降っても積もることはないけど、小学生の頃だったっけ。珍しく道路に積もるくらい降って、そのとき雪合戦したな。あの頃はただ無邪気だった。遠慮無く話せて笑い合えたのに、今は何故かアイツを遠くに感じる。これで誰かと付き合うとか聞いたら、決定的な何かが崩れそうな気がする)
 ベッドから起き上がり窓辺から見える道路を見ろしていると、帰宅している啓介の姿を見つけ胸が高鳴る。しかし、その首に巻かれてある身覚える緑色のマフラーを見た瞬間、愛美の心には大きな亀裂ができ、その場で泣き崩れていた。

 翌朝、いつものように家を出るが元気のない様子に真由美は危惧しながら送り出す。昨夜から考えていたことだが、今日は学校をサボって買い物をしようと決めていた。
(知世にも啓介にも会いたくない。今日は気晴らしに好き勝手なことしよう)
 駅までの道すがら啓介に会わないように気を配りながら向かい、電車に乗りいつもの駅を通り過ぎ繁華街へと向かう。方向音痴な面があると理解しているため、全く知らない街へとは流石に行けない。始業時間を回った九時にはショッピングモールを散策していたが、同じような制服姿の高校生が見られサボる生徒が一定数いることを実感する。
(人生で初めて学校をサボったことになるんだけど、果たして今からどこ行こうかな)
 念のため携帯電話の電源を切ると、賑わうモールの一角で立ったまま考える。当初は買い物をしようと思っていたが、所持金を考えると難しいと思い直す。一番お金の掛からない時間潰しは本屋での立ち読みか公園でボーっとすることだと考えてみるも、立ち読みにも限度があり今の時期の公園は寒くとてじゃないが座っていられない。少し考えた後、無難に立ち読みを選択肢し本屋へと足を向ける。モール内にある本屋は全国規模ということもあり、立ち読みにつき申し分ないと判断した。

 目的とした書店に着くと、週刊誌やファッション誌をパラ読みしつつ、初めてのサボりを満喫する。今頃クラスメイトは皆真面目に授業を受けているのだと思うとどこか愉快な気持ちになる。一方、昨日みた啓介の光景が目に焼きつき離れない。
(あのマフラー、知世が編んでたヤツで間違いない。アレを着けてたってことは告白を承諾したってことだもの。私の出る幕は無くなった……)
 雑誌に目を通しつつも上の空で内容は全く入ってこない。心の一部が喪失したような心地になり、胸の中心はポッカリと穴があいたようになっている。そして、啓介との楽しかった過去をふいに思い出すと涙が零れそうになり、意識を強く持って立ち読みを続けていた。

 昼過ぎ、あまり食欲はないものの喉の渇きを感じ書店を後にする。飲食店が多く並ぶモール内で喫茶店を探すのも難しくはない。様々な飲食店が並ぶ中、某有名牛丼店の列に見た顔を見つける。相手も愛美に気がついたようで、笑顔で手を振っている。昔からお世話になっていたこともあり、無視することも出来ず仕方なく相手の方に歩み寄る。
「お久しぶりです、麻耶さん」
「久しぶりねマナちゃん、学校サボって何してるのかな?」
 スーツ姿でバリバリのキャリアウーマンオーラを放つその女性は、とても清々しい気風と美しい容姿を湛えている。啓介の実姉でもあるが、物心ついたときから構ってもらっていることもあり、もはや自分の姉と同等の位置づけだったりする。サボったことを一発で看破され動揺する愛美の手を強引に引っ張ると牛丼屋の列に無理矢理並ばされる。
「あの、私、今食欲ないんですけど……」
「私はお腹すいてるから付き合ってよ。たまにはお姉さんと一緒にご飯食べるのもいいでしょ?」
「はあ……、相変わらず強引ですね」
「それが私の良いとこよ」
 悪びれる様子もなく言い切る麻耶を見て愛美は苦笑いするほかない。

 テーブル席に向かい合って座ると牛丼並と玉を勝手に二人前注文して笑顔を向けられる。
「さて、悩める乙女さん。今は何に悩んでる?」
 目線が合うなり麻耶はきり出す。
「えっ、悩みって、どうして……」
「顔に書いてあるもの。私、かなり悩んでます! ってね。時期的に考えて……、そうね、恋愛系でしょ? もしかして啓介絡み?」
 まるで読心術でもあるかのような麻耶の洞察力に愛美は驚嘆する。
(私でもリアルタイムの思考しか読めないのに、心の奥底まで看破するなんて……、適わないな~)
「麻耶さんには何でもお見通しなんですね」
「伊達に何十年もあなた達のおもりしてないわよ」
 ウインクしニヤリと笑う麻耶を見て、愛美は胸の奥に溜まっていた全てを吐き出そうと決心していた。

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