読心女子≠恋愛上手<お悩み二乗はπ
第12話
遡ること数時間前、溜め息を何度も吐きながら知世は通学路を歩く。バレンタイン告白の翌日で元気が出ようはずもない。愛美にもなんとなく顔を合わせづらく、いつもとは違う道を通っている。
前日、駅の改札口で待機していた知世は計画通り啓介を待ち伏せることができ、自分の想いを真っ直ぐ伝えた。
啓介からの返事は知世にとって良いものとは言えず、遠回りながら拒否の意思表示をされる。知世の存在自体は知っていたらしく無下な対応はされず、その優しさが逆に辛くもあった。
「好きな女性がいるんですか?」という問いに対しては、「自分でもよく分からない」という返答があり、それはすなわち幼馴染である愛美を意識し始めているのだと悟る。
「最初から勝ち目のない勝負だったってことかな。はあ~、学校サボりたい……」
肩を落としぶつぶつ言いながら一人歩いていると、背後から声を掛けられる。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん?」
振り向くと自分より背の低い童顔な男子生徒が立っている。
「何か?」
「楢崎先輩ですよね?」
「そうだけど?」
「僕、相楽孝太って言います」
「相楽君、で?」
興味のない表情で向き合う知世に対して孝太も戸惑う。しかし、前日愛美にした説明をすると知世も夏の件を思い出す。
「あの時のお婆ちゃんの孫ね。それはどうもご丁寧に」
「ホント感謝してます。もし楢崎先輩が助けてくれてなかったらどうなってたことか」
並んで登校しながら孝太は感謝の念を重ね、知世は興味のない表情で聞き流す。その変わった様子に孝太は疑問を感じ問いかける。
「あの、楢崎先輩何かあったんですか? 元気がないように見受けられるんですけど?」
「元気? 元気モリモリよ。モリモリ過ぎて光合成しちゃうくらい」
「全然そうは見えないんですけど……」
そう言って以降二人の間には沈黙が流れそのまま学校の下駄箱まで向かう。靴を履き替え愛美の教室の前に差しかかると孝太も止まる。
「ん? なんで相楽君も止まるのよ」
「いえ、新城先輩いるかなって」
「なんで相楽君が愛美を気に掛けるの?」
「あ、すみません。言い忘れたんですけど、僕昨日新城先輩に告白したんですよ」
孝太のセリフを聞いて知世のボーっとしていた意識がシャキっとなる。
「告白って!? 愛の告白?」
「愛って……、まあ、そうですね」
「で、結果は!?」
「う、ダメでしたよ。でも諦めないって強がりだけは言っときました」
「そう、年下の割にはなかなかやるじゃない」
あっさり身を引いた自分と比較し少し孝太が輝いて見える。二人揃って教室を覗くものの愛美も啓介も居らず顔を見合わせる。
「まだ来てないみたいですね」
「そうね、愛美が来るには確かにまだ早いかも」
「じゃあ僕はもう少し待ってみます」
「そう、私は自分のクラスに行くわ。くれぐれもストーカーチックなことはしないように」
「しませんよ!」
戸惑い顔で抗議する孝太をからかいながら知世は去っていく。
(真面目で可愛くて愛嬌のある子じゃない。それを振るってことは、愛美も相当啓介君のことを想ってるってことか。やっぱり勝ち目ナシだな~)
失恋したことを改めて再確認し、知世は大きな溜め息を吐いた。