読心女子≠恋愛上手＜お悩み二乗はπ

第15話

　昼休み、教室の机で弁当箱を広げると普段より豪勢で、愛美の好物ばかりが目に入る。毛糸の無断使用の件で悪いと感じたのか、真由美らしい配慮がそこには現われていた。同じように弁当を広げつつ知世も感嘆する。
「あれ？　今日の弁当気合入ってるね～、おばさん何か良いことでもあったの？」
「あはは、まあちょっとね」
　ごまかしながら出汁巻き玉子に箸を伸ばす。昨日のうちに麻耶からも連絡があり、マフラーの件は一件落着した。ただし啓介との件は保留とし、今はまだ想いを伏せることにする。間接的に聞いた啓介の状態からすると、まだ告白のタイミングではないと思う。
　バレンタインに里菜や知世から告白され、本人も落ち着かない部分があると踏む。いくら脈があっても、短期間に複数の告白を受けては流石の啓介も引いてしまうのではと危惧していた。何より、自分自身の告白体勢がまだ整っていないとも思う。
（タイミングの問題かもしれないけど、もう少しアイツの動向を見てから判断しなきゃ。相変わらず心は読めないし……）
　チラッと啓介を見るとパンを食べながらゲームをしており、その傾倒体勢たるや褒めるしかない。唖然としながら箸を進めていると、隣の席に孝太がやってくる。
「新城先輩、お昼一緒にいいですか？」
「え、うん、どうぞ」
「ありがとうございます」
　嬉しそうに返事をするとコンビニ袋からおにぎりを取り出し食べ始める。
「相楽君、コンビニおにぎりだけで足りる？　私のおかずちょっとあげよっか？」
「え、いいんですか？　楢崎先輩優しいな～」
「いや～君はもっと食べて成長しなきゃダメだよ。食べないと大きくなれんよ？」
　親しげに話す二人を見ながら、割とお似合いのカップルになるんではと愛美はほくそ笑む。ふと外の景色に目をやると、学食に向かっているであろう里菜と詩織を見つけ昨日の事を思い出す。
（仁古さん、確かに私に向かって、これからが本番、居ないと困るって思考をした。一体なんのことだろう。ほとんど交流ないのに昨日の捜索にも参加してたし何か裏があるのかも。注意してよく観察しなきゃ）
　ふいに降ってきた詩織の疑念に不気味さを感じつつも、自分の身を案じてくれているという点に親近感も抱いていた。

　放課後、知世に対し祖母の件でちゃんとお礼がしたいと言う孝太の強引な口説きにより、知世は相楽家へと訪問することになった。当然愛美も誘われていたが、自分は自分で里菜たちにお礼を言いたいとして断る。その裏では、知世と孝太を二人っきりにさせて今後の展開を楽しもうという愛美なりのおせっかいもある。愛美のことを諦めないと言った孝太だが、知世と一緒に居る孝太は自然体でとても楽しそうにしている。知世もそれを楽しんでいるふしがあり、まんざらでもなさそうだ。
（二人が付き合うとかになったら、私も心置きなく啓介に想いを告げられるような気がするんだけど。ま、そんな他力本願な考えをしてる時点でヘタレよね……）
　少し自己嫌悪になりながら階段を上っていると、廊下に立つ詩織が視界に入る。雰囲気からして愛美を待ち構えていたんだと感じ取れる。
（最初から読心モードでいこう）
　内心で臨戦体勢を取りながら愛美は詩織に話しかける。
「こんにちは、仁古さん。昨日はご迷惑をおかけしました」
「いいえ、何もなくて良かった。でも、真面目な新城さんが学校サボるなんて思わなかったからビックリしたわ」
「本当にすみません。公私共に思うところがあって……」
「そう、誰にでも悩みはあるもの、たまには自分を解放するのも必要だと思うわ」
　詩織の言動と思考は一致しており、本心で語っていることが伝わってくる。
（この人、やっぱり本心で私を心配してくれてるの？）
　訝しがりながら見つめていると、詩織はクスリと笑う。
「ねえ、新城さん。貴女、伊藤啓介君が好きなんでしょ？」
「えっ!?」
「でも自分に自信がないから想いを伝えれない。今回のサボり事件も結局そこが原因だものね」
　突然切り出された啓介の話題と自身の気持ちを展開され戸惑う。そんな愛美を見て詩織はさらに続ける。
「貴女はまだ、自分の力を活かしきれてない。たかだか恋愛ごときに振り回されて、戸惑っている場合じゃないわ」
「どういう意味ですか？」
「察しが悪いのね。私を目の前にして『最初から読心モードでいこう』なんて、無意味ってこと。だって、私も他人の心が読めるのだから」