読心女子≠恋愛上手<お悩み二乗はπ
第16話

 駅前にある公園のベンチに座ると、詩織は向かい合って微笑む。これから話すであろう内容が内容だけに校内でする訳にはいかず、互いが合意の上で今の状況になっている。自分以外に初めて接する読心術者に愛美は戸惑い緊張しながら座る。同時にこちらの思考が筒抜けという状態がいかに怖い事なのかを実感していた。
(仁古さん、一体何が目的で私にコンタクトを……)
「緊張する気持ちは分かるけど、それはお互い様だし、企みがあって近づいた訳でもないから安心して。私は単純に二人でゆっくり話す機会を窺っていたの。同じ能力者同士ね」
 愛美の心を読んだふうに語り、詩織が読心術者であることを嫌でも感じさせる。
「興味本位で聞きたいんだけど、新城さんっていつから自分の能力に気がついてたの?」
「私は物心ついたときにはもう」
「そうなんだ。私は三年前、交通事故に遭ってそのときのショックで読めるようになったわ。ちなみに、知人に同じような能力を持つ人とかはいる?」
「いえ、多分家族も含め私だけだと思う」
「なるほど、それも一緒か。私も家族で一人だけサトリだし」
「サトリ?」
「ああ、通称ね。妖怪とかに分類されたりするけど、人の心を読む存在のことをサトリっていうの。悟りを開くって意味からきてる可能性もあるけど。とにかく、手芸部で新城さんもサトリだって分かったときは驚いたし、初めて分かりあえる仲間が現われたって思ったわ」
 興奮気味に語る詩織に対してどこか違和感を覚えつつ耳を傾ける。しかし、ついで語られたセリフにより違和感の正体が判明した。
「ねえ、私達の能力は神に与えられたとても崇高な力だと思うの。この能力を以ってすれば多くの人の上に立ち導くことだって出来る。本当に正しい人間と性悪な人間の選別ができ、正しい人間だけの集団を集めることだってできる。私はこの能力を得てから、いかに有効利用すべきか考えて生きてきたわ」
(人間の選別って、この人……)
「貴女は今、伊藤君の思考が読めずに困ってる。でも、私が読めば問題は解決するわ。私と貴女が力を合わせればどんな問題もクリアできる。私達は選ばれた人間なのよ。一緒に世界を変えていきましょう!」
 考えてもみなかった驚愕の提案をされ、愛美はどう返答して良いか困惑する。当の詩織は目がキラキラしており、かなり興奮しているのが分かる。
(仁古さんのこの目と雰囲気、本気で言ってる。世界を変えるなってそんな……)
「信じられないかもしれないけど、それができるのよ。私達の能力はそれくらい素晴らしいものなの。嘘を見抜ける、相手の出方も筒抜け、トラブルも回避できる。政治利用からギャンブルにも応用できる。愚かな人間を支配し利用するためにあるような能力だと思わない?」
(支配、愚かな人間……)
 詩織のこの言葉を聞いた瞬間、違和感の元がはっきりする。
「仁古さんは最初自分の能力で性悪の人間とそうでない人間を選別できるって言ったけど、選ぶ貴女自身が性悪だと何の意味も持たない」
 真顔で言い切る愛美を見て詩織はきょとんとする。
「仮に貴女の言う事が正しくて、正しい人間を選別しているのなら貴方の周りには良い人がとっくに集まってるはず。でも現状はいつも貴女は一人。それが貴女という人間を裏付けてると思う」
「な、何を言うかと思ったら、随分好き勝手言ってくれるじゃない。でもおあいにく様。今の現状は私の目にかなう人間が居ないってだけよ。里菜先輩はお花畑だし、楢崎はガサツで冷静さに欠ける。貴女が熱を上げてる伊藤なんて毎日ゲームしてるだけのガキじゃない……」
 そう言い切るか言い切らないかの間際、愛美は詩織の頬を引っ叩く。
「私の大好きな親友や尊敬する先輩、そして何より、一番大事な存在でもある啓介を馬鹿にするような貴女を、私は絶対認めない!」
 突然叩かれた詩織は呆然として固まってしまう。ベンチを立ち上がると愛美は哀れんだ目で見下ろす。
「可哀相な人。貴女は心を読める能力と引き換えに、相手の心の奥に持つ真の姿や想いをする術を失ってる。貴女を理解してくれる人はきっといない」
 愛美はそう言い残すと呆然と座る詩織を残して公園を去っていく。ベンチに座ったまま詩織は動けず、ただ叩かれた頬に手を当てていた。

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