読心女子≠恋愛上手<お悩み二乗はπ
第5話
啓介の視線は愛美に、知世の視線は啓介に、愛美の視線は二人を行き来している。
(コレは非常にまずい状況なのでは!? なんでこのタイミングで現われるんだバカスケー!)
返答に困りながら立っていると知世が口を開く。
「お茶ってどういうこと?」
視線とともに向けられる問いに愛美は一瞬口ごもってしまう。そこへ、さらに空気を読めない啓介が逆助け舟を出す。
「さっきコイツから手作りマドレーヌ貰ったお返しだよ」
(その言い方じゃ、私が作ったマドレーヌを差し入れしたみたいになるでしょーが! 馬鹿野郎!)
啓介に回答を聞いた瞬間、知世は愛美を一瞥して玄関先を小走りに去って行く。
「ちょ、ちょっとトモ待って!」
焦って負い掛けようとした瞬間、路面の凹みにつまづき前のめりになる。
(ヤバッ!)
危機を察した愛美を啓介は正面から抱きすくめて支える。
「おいおい、大丈夫か? こんなところで転ぶなよ」
思いもよらない啓介の抱擁を受けて、愛美の体温はいっきに急上昇する。
(えっ、何コレ。私、バカスケの腕の中にいるの?)
一瞬思考がフリーズし同じくして全身も硬直するが、我に返ると飛び退くように距離をおく。
「ちょっと! 何するのよ!」
「え? 倒れそうなところを支えたつもりなんだけど?」
(う、その通りだ……)
「って言うか、なんで引き返してきたのよ! ちょっとは空気読んで発言して!」
「ん? 空気って、俺、なんか変なこと言ったか?」
「変て言うか……」
(そうだ、バカスケは知世のことを何にも知らないんだ。我ながら混乱しまくってるわ)
走り去った知世に追いつけないと悟ると気持ちを切り替え、狼狽っぷりを恥じながら深呼吸をして冷静に向き合う。
「とりあえず、なんで急にお茶のお返しだなんて言ったの?」
「ああ、冷静に考えて、持ってきてくれた相手に対して失礼だなと思った次第」
「ふむ、じゃあその頬にあるビンタの痕はなに?」
「…………」
無言になり視線を逸らす啓介を見て愛美は全てを悟る。
「マドレーヌを貰っておいて何もせずに私を返したことを、麻耶さんに知られて叩かれたんでしょ? で、急いで引き止めにきた、じゃない?」
「オマエは名探偵か」
「まあ麻耶さんの性格は昔から知ってるからね~」
苦笑いする愛美に反して、啓介は溜め息をつく。
「そうなんだよ。姉貴のヤツ相変わらず手が早くてな。未だにパシリだよパシリ」
「容易に想像つくわ。昔からよく叩かれてピーピー泣いてたもんね」
「うるせえよ」
照れくさそうに抗議する姿が子供の頃と全く変わってなく愛美はどこか嬉しく思う。一方、確実に誤解を招いたであろう知世のことが気にかかり、どういったフォローをすべきか真剣に考えていた。
翌日、登校時いつも待ち合わせていた場所に知世は現われず、愛美は一人で学校に向かう。知世の件もあり、啓介からのお茶の誘いを断り直ぐに連絡を取ったが、一向に電話は繋がらずメールの返信もない。入学以来ずっと二人で登校していた街路樹を一人で歩くことに一抹の寂しさを覚える。二月の寒さは半端なく、都会に住んでいると言えど雪がチラつく日もあったりする。
(今はいいとして、学校にも来てないとなると解決のしようがない。幸い、知世の心は読めるから本心は手に取るようにわかる。会えさえすれば知世の望む対応ができるんだけど……)
マフラーにあたる白い息に冬を感じながら歩いていると、交差点で信号待ちをしている里菜を見つける。
(一人で登校するよりはマシか。声かけて一緒に登校してもらおうっと)
少しウキウキしながら軽い足取りで里菜に向かっていると、里菜の隣に男子生徒がいることに気が付く。里菜の奥にいて気づくのに遅れたが、二人は親しげに話しており笑顔も見られる。近づくにつれ誰であるか分かったその男子生徒は、愛美に気が付くといつものように挨拶をした。
「よう、デコスケ」