読心女子≠恋愛上手<お悩み二乗はπ
第6話
挨拶を交わすと、啓介だけ小走りで学校に向かい里奈と愛美は取り残される。全く接点のない者同士だと思っていただけに、愛美の心は二人の関係が気になり気が気でない。そんな視線に気が付いたのか里菜の方から口を開く。
「伊藤君とは学食のカレーライス好き仲間なのよ。結構前のことだけど、私が伊藤君の制服にカレーをこぼしたのがきっかけで話すようになったの」
笑顔で語る里菜より顔見知りになった経緯を聞きながら、愛美は不安を覚える。語る里菜の雰囲気からは好意が溢れており、部活では見せたことのないような女性の顔していた。
(もしかして、里菜先輩も啓介を好きなんじゃ。だとしたら、私じゃ全然太刀打ちできない。才色兼備な先輩と私では全てにおいて勝てる要素がない……)
内心焦りながら隣を歩く里菜の心に恐る恐る触れる。
『早くお昼にならないかな~、早くカレーが食べたいな~、カレーパンマンって足とか腕も美味しいのかな?』
心読んだ瞬間、一瞬噴きそうになるが何とか耐えて隣を歩く。
(カレーパンマンって! っていうか登校時点で昼食を楽しみにしてるって、どんだけ食いしん坊!?)
以降、校門をくぐるまで、里菜の頭に中ではアンパンマンのオープニング曲がエンドレスで流れており、改めて只者でないと実感していた――――
――教室に入るとゲームをしている啓介をスルーし、知世のクラスに足を向ける。中を確認するも姿は見られず、始業時間ぎりぎりまで教室の前で待機していたが結局知世は現われない。昨夜のうちに電話とメールで連絡を取るも返事はなく、啓介との件が尾を引いていることは間違いない。
(もし放課後までに来なかったら、直接家に行こう。誤解は早めに解いていた方がいい)
踵を返して自分にクラスに戻ろうとして愛美はハッとする。
「誤解って、私、何言ってんだろう……」
自分の本心がどこにあるのか、知世に対して本当に言うべきことは何なのか、その重さに気が付き廊下に立ちつくす。
(知世の気持ちを優先させるということは、私自身の気持ちを裏切るってことなんだ。それは啓介を諦めるってことに……)
知世と向き合うことが容易でない結果を産むと気がついた愛美の心は揺れ動き、同時に心が読める事が何の役にも立たないのだと実感していた。
その日一日の授業は右から左に抜け、全く身に付いていない。愛美の中ではこれからどうすべきかが全てであり、それどころではない。
(部活は休むとして、問題は知世の家に行くかどうか。仮に行ったとしてもどう話すべきか。啓介を諦めて欲しいなんてストレートに言える訳もなく。でも、心底応援できるかと言うとそれもまた違うし、今さら私も啓介を意識してるだなんて失礼極まりないよね……)
放課後、机にうつぶせになり愛美が思い悩む中、教室の片隅では啓介達が恒例のゲーム大会を繰り広げており、その様子に溜め息が出る。
(バカスケくらい単純だったら悩む事なんてないんだろうな。事の中心人物のくせに一番気楽だなんて腹立たしいわ~)
半分恨むような視線で啓介を見つめるも、相手は全く気づく気配も無く楽しげにゲームに没頭している。
そんな啓介の笑顔を見ていると考えるの馬鹿らしくなり、愛美は席を立つ。
部室に顔を出し、体調が悪いと里菜に申告して部活を休む。流石にこんなモヤモヤした気持ちで部活には参加できない。下駄箱に向かい階段を降りていると、部員である詩織とすれ違う。普段から交流もないのでそのまま通り過ぎると、ふいに呼び止められる。
「新城さん、部活は出ないの?」
「え、ああ、うん。今日は体調が悪いから」
「そう、お大事に」
「どうもありがとう」
軽く会釈すると愛美は階段を降りて行く。
(珍しいな。大人しい仁古さんの方から話しかけてくるなんて。どういう風の吹き回しだろ。まあいいや、今はそれより知世のことだ)
普段と違う詩織の言動に戸惑いながらも、当面の大きな問題に目を向ける。その後ろ姿を意味深な笑みを浮かべ詩織は見送っていた。
最寄り駅に向かいながら知世の自宅に行くべきか悩みながら歩道を歩く。帰宅部と重なり、駅への通学路は同じ北校の制服が多数見られる。
(いつもならこの道を知世と一緒に歩いていたのに、隣にいないとやっぱり寂しいな。でも会ったとしてなんて声をかけるべきかも分からない。今更何を言っても詭弁としか取られないような気がするし)
溜め息を幾度とつきながら、街路樹をとぼとぼ歩いていると視線の先に私服を着た知世の姿が目に入る。その姿を確認した瞬間、足は勝手に駆けだし目の前に来るなり正面から知世に抱きつく。
「ちょ、ちょっと? マナ?」
「ゴメン、トモ。私も啓介のこと好きだ。ごめんなさい!」