読心女子≠恋愛上手<お悩み二乗はπ
第7話

「親友でもあり、恋のライバル。ふふ、こういうのもアリなのかもね」
 駅中のスタバでブラックコーヒーを飲みながら知世は苦笑いする。方や愛美の前にはカフェオレが見て取れる。
あれやこれと考えていた愛美だったが、知世に向き合うと自分の素直な気持ちと現状を吐露していた。同時に知世も自身の気持ちを伝え、それでもお互いが親友として必要だという認識に至っていた。
「ホント、ごめんねトモ」
「いいって、素直に言ってくれた方がスッキリするもの。まあ、それとなくだけどそんな気はしてたしね。で、伊藤君とは本当に付き合ってないんでしょ?」
「うん、それは本当。バカスケ的にも私の事は幼馴染程度の認識でしかないよ」
(たぶん、だけど……)
「そう、なら今後どうなってもお互い恨みっこ無しだね」
「もちろん。失恋の傷は自己責任ってことで」
「異議無し」
 互いに笑い合うと心がポカポカと温かくなっていく。さっきまで感じていた寂しさはどこへやらで、ずっとニコニコしている。
(素直に話して良かった。やっぱり知世は親友だわ)
 マドレーヌの経緯や啓介の家族の事、愛美の知っている啓介像を昔話を織り交ぜながら話す。当然知世は興味津々でそれらを聞き、現状ある啓介の姿に納得していた。
「そうそう、これは今日知ったことなんだけど、バカスケと里菜先輩って顔見知りなのよ。トモ知ってた?」
「えっ、初耳。変わった組み合わせね。二人に接点ないでしょ?」
「うん、それが学食で知り合ったらしくて、結構仲良さげなのよ」
「ちょっと待って。仲が良いってどういうこと?」
 思わぬライバル出現に知世の顔に焦りが見られる。
「私も今朝知ったことだから正確には分からない。ただ、私にはそう見えたってこと」
「付き合ってるって可能性は?」
「100%無い」
「根拠は?」
「バカスケは付き合っている女性を隠せるほど器用じゃない。私を目の前にして先輩と普通に話してたってことは、その程度の関係ってこと」
「なるほど、説得力あるわ」
 いやに納得する知世を見て、愛美は苦笑いする。
「ただ、気がかりなことはあるかな」
「気がかり?」
「勘だけど、先輩の方がバカスケを好きってパターンも有り得るのかなって」
「う~ん、あの里菜先輩が伊藤君を、か。どうだろうか? 先輩の言動なんてレベルが高すぎて常人には読めないからね~」
(読んだらカレーパンマンのことを真剣に考えてたなんてとても言えない……)
「まあ、里菜先輩は特殊だから仕方ないね。でも仮に先輩までバカスケが好きだとか判明したら、私は白旗揚げそう。トモは?」
「そうね、右に同じかも。あの人には勝てない。いろんな意味でね。でも、私は玉砕覚悟で来週のバレンタインに告白するよ。後悔したくないし。マナはどうするの?」
「私は……」
 問われて初めて、自分から告白する体勢ができていないことに気がつき愛美は動揺する。知世の前で好きだと言葉にしたことで、想いに誤魔化し様はないが、それを伝えるほどの領域にはまだ達していない。沈黙を守る愛美を見て、知世は察する。
「えっ、もしかして、マナ。自分の気持ちに気づいたの最近?」
「…………、分からない。ただ中学くらいからずっと気になってたのは確かだよ。でも、想いを口にしたのはさっきが初めて」
 戸惑いながら出た言葉に知世は頭を抱える。
「やっちゃったね。私の伊藤君への想いを知ることで、マナ自身が知らず知らず押し殺していた想いの扉を開くきっかけになったんだわ。ある意味、寝ていたライバルを起こしたのは私でした状態ね」
「あはは、そうなるのかもね」
「そっか~、ライバルか、う~ん…………」
 目を閉じて首を捻る知世を見ていると、自然と思念が伝わってくる。
『伊藤君と幼馴染で昨日のあの親しげな雰囲気。たぶん私に入り込む余地はない。でも、想いも伝えず何もしないまま終わるのも絶対後悔する。たぶん叶わない想いだろうけど、マナと同じ人を好きになれて、これからも応援できるならそれでもいいかな。なんだかんだ言っても、愛美は親友だしな~』
(トモ……)
「さっきも言ったけど、お互い恨みっこ無しってことで……、ってマナ!?」
 突然ボロボロと涙を流す愛美を見て、知世は驚き目を見張る。
「ちょ、どうしたの!?」
「ごめんなさいトモ、本当にごめんなさい! ありがとう、たくさんたくさんありがとう。トモ大好きだよ……」
「いやいやいやいや、意味わからんしね。告白する相手間違ってますがな」
「ううん……、もうね、貴女は私には過ぎた親友です。ホントに大好き」
「あああ、これはあかん、マナ完全におかしくなってる。熱でもあるんじゃないの? だ、大丈夫?」
 席を立ちあたふたしながら心配する姿がとても可笑しく、愛美は涙を拭きながら笑顔を見せる。最初は緊張して気にも止めることもできなかったが、店内にはコーヒーの心地良い香りが流れている。
(ほろ苦いコーヒーはまだ苦手だけど、匂いだけは心地いい。恋も友情もこういうものなのかな。知世に比べて私はまだまだ子供だ……)
 テーブルの前に並ぶ、カフェオレとブラックコーヒーを見つめながら愛美は自嘲気味に微笑んでいた。

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