読心女子≠恋愛上手<お悩み二乗はπ
第8話

 バレンタイン当日を迎え、クラスの女子のみならず関わりのなさそうな男子もそわそわしており、どこか滑稽に見える。啓介は普段と変わらず休み時間はゲームに没頭しており、ある意味大物だと実感する。知世は有言実行で、今日の放課後啓介に告白すると宣言した。一方の愛美は、まだ心の準備ができてないと伝え、今回のイベントはスルーすると答える。
 啓介の返事がどんなものになるのか気になる反面、彼が自身で考えて出した結論ならそれを尊重するしかないとも割り切る。普段は休み時間にも顔をだす知世だが、今日だけはライバルとして交流は避けると言っており、愛美もそれに従う。知世の告白が成功するにしろ失敗するにしろ、愛美の心にかなりの影響が出てくるのは明白で、今日くらいは距離を取ってくれてた方が都合良く、互いの利益が合致した選択とも言える。
(もし告白が成功したとしら、今日のうちに二人はキスとかするのかな。そう考えると心が苦しくなる。でも、知世がフラれるのも悲しいし啓介がフリーとしても素直に喜べない。なんとも歯がゆいな~)
 悶々としたまま、時は過ぎ、問題の放課後を迎える。教室に残る三馬鹿トリオは相変わらずゲームをしており動く気配はない。この状態では知世も何もできないであろうことは予測がつき、おそらく三人が解散する駅前で待機し告白の準備を計画しているのだろうと睨む。
 緊張しながら駅で待っている知世を思うと早く帰ってやれと思う反面、告白の結果が怖くてこのままずっと見ていたい気持ちにもなる。
(ダメだ。どう足掻いても今日結果は出る。私はただ見守ることしかできない。このままここに居ても何にもならないし、もう帰ろう……)
 諦めに近い溜め息を吐き鞄を提げると、啓介を一瞥してから席を立つ。教室を出ようと後ろのドアに向かうと、先に開き一人の女子生徒が入って来る。その女子生徒は愛美に微笑むとスッと前を通り過ぎ啓介の元へと向かう。その淀みない足取りと美しい横顔に愛美は戦慄を覚える。
「啓介さん」
 目の前に立つ里菜を見て啓介のゲームをする手が止まる。隣に座る二人も同じように止め里菜を向く。
(まさか! 里菜先輩!)
「もし宜しければ私とお付き合いして頂けませんか?」
 啓介のみならず他の二人も呆然とするなか、当の里奈だけは平然とし微笑む。手にはバレンタインプレゼントと思われる袋が握られている。教室内に残っていた他の女子生徒達も驚き興味津々と言った風に状況を見守る。愛美も突然の告白に固まり微動だにできない。静まり返る教室内を破ったのは啓介で、その返答に愛美は驚く。
「ごめん、今、手離せないから返事は考えさせて」
 そう言うと再びゲーム画面に目を落とし、追随するように二人もゲームを始める。
(嘘でしょ!? この状況でもゲーム優先ってどんだけ子供なんだ!)
 取り残されたような形になった里菜も少し驚いた顔をした後、おもむろに口を開く。
「お忙しいところごめんなさい。良い返事をお待ちしてますね」
 プレゼントを渡すことなくその場を去って行く里菜を黙って見守っていた愛美だが、我に返ると廊下に飛び出て呼び止める。
「里菜先輩!」
「ごきげんよう、愛美さん」
「ごきげんって……」
「何かご用?」
 平然とした表情で返す里菜を見ると何も言えなくなり、そっと心に触れる。
『辛い、早く帰って泣きたい……泣きたいよ……』
(里菜先輩……)
 平然とした表情の下にあった女の子の顔を知り、愛美の心も締め付けられるように痛む。普段は不思議系として振る舞っており、心を読んでも雅で温かな風を持っていた里菜が初めて見せた顔。周りに見せていた大人な振る舞いもきっと強がっていた部分もあったに違いない。
(里菜先輩、本当は私達と同じように普通の女の子なんだ。今だって泣きたいくらい辛いのに後輩の前だから強がって……、やっぱり尊敬しちゃうな)
「あの、ごめんなさい。何でもないです……」
「そう、では失礼するわね」
 いつものように微笑み里菜は去って行く。その後姿をただ黙って見送ることしかできない己の無力さに愛美は打ちひしがれる。しかし、それと同時に次は知世が啓介に告白をするのだと思うと胸のざわめきがぶり返す。告白を断ってほしい反面、啓介の里菜に取ったような態度も断るマナーとしては違反していると感じ、複雑な想いが交差していた。

< 8 / 18 >

この作品をシェア

pagetop