トライアングル
「俺から見たら、誠ちゃんは落ち着いてて、もの考えてて、割と分別のある人なんだよね。」
「それはどうも」
「まぁ無口だから何考えてんのかわかんないとも思うけど、喋ってみたら案外いろんな事に答えてくれるし、悪いヤツとか嫌なヤツではないよ」
「褒めてんのかけなしてんのかどっちかにしろよ」
「あ、けなすって言えばね、北海道には毛が無いって書いて毛無峠ってとこがあるんだよ、知ってた?」
「そこから増毛が見えたら毛が生えるんだろ…何の話だよ」
突然始まった『薄毛に悩む男性達の間にまことしやかに流れる伝説』に、誠司は心底脱力した。
毛無(けなし)峠から増毛(ましけ)町は、雲がかかっている事が多く、なかなか見えないのだそうだ。
「あー、毛の話じゃなくて、誠ちゃんの話だ」
毛と比べられたような気がして、誠司はまた突っ込みたくなったが我慢した。
礼の話の脱線具合は、クラスの女子に勝るとも劣らない。
「うん、その誠ちゃんが好きになる人ってどんな人かなーと」
「どんな人って、もう知ってるだろ」
「まぁね。それが半沢さんな訳でしょ。分別ある誠ちゃんが唯一分別つけらんない程の人って、興味わくっていうか」
「要するに、面白がってる訳か」
「まーた誠ちゃんは、身も蓋も無いこと言うなー」
「お前の動機の方が身も蓋も無いだろ」
まあね、と言って、礼はまた笑った。
とっくに食べ終えてしまっていた弁当箱を包み直す。
適当なのか精一杯なのか、礼の包み方はどこか乱雑だった。
「誠ちゃんは誠ちゃんでさ、半沢さんのどこが好きとかじゃなくて、半沢さんそのものが好きとか言うし。」
「それが?」
「そんだけのものって、どっから来るのかなって」
牛乳は、残り3分の1といったところだった。
軽く降って、量を見る。
「どこからって…」
「俺はそーゆー風なレンアイってした事ないから」
礼の恋愛事情までは、誠司は知らない。
単に周囲に注意を払っていないからだった。
「ちょっと誠ちゃんがうらやましい」