トライアングル

半沢 蛍子

 
黒い雲が、空を低く沈ませていた。
夕方からは雨が降ると、天気予報で言っていた通りになりそうだった。

半沢蛍子は、時計を見た。
そろそろ部活に顔を出さなくてはいけない時間だ。

副顧問をつとめてはいるが、この学校では美術の教師は非常勤扱いで、決まった曜日にしか学校に出てこない。
その曜日にだけ来て授業をし、部活を見てくれている。

蛍子は美術の専門的な知識など殆ど無いまま、副顧問とは名ばかりの正顧問のような形で、美術部の活動を見ている。

部員の数は少ない。
一年生は二人、二年生は三人、三年生に至っては一人しか居ない。

毎年、十人ほど入っては、一ヶ月くらいで辞めて違う部へ行ってしまう。
辞めてなくても在籍しているだけで、全く顔を出さない生徒も四人居る。

要するに、三分の二は部活に来ない。
実質、部員二人だけの部活なのだ。

活動している内の一人は三年生で、これから忙しくなる。
文化祭が終わって、秋になれば来なくなるだろう。

蛍子は小さく溜息をついた。

年に一度ある、他校の生徒が多く集まる地区展覧会で、各校の部を見る度に寂しくなる。
世の美術部員はなかなかどうして積極的に活動している。

それに比べて、この学校はどうだろう。
文化部だから、少人数のところなんていくらでもある。
しかしそれは、活動が消極的な理由にはならない。
六人いる部員の内、二人しか活動していない言い訳にもならない。

自分の指導力が足りないのか。

地区展覧会には、各部員一点の作品提出が原則だ。
課題をこなす時にだけしか賑わう事のない美術室には、今日も沈黙だけがそこにある事だろう。

蛍子は美術室へと向かう。
 
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