トライアングル
 
「さて、行こっか、誠ちゃん」

弁当袋が入っているせいで妙な形に膨らんだ鞄を持って、礼は立ち上がった。
誠司も倣って席を立つ。

授業終了のチャイムが鳴る前の廊下は、人もまばらだ。
二人のクラスの生徒が数人しか出ていないのだから当然だった。

「で、どこ行くの」

「考えてない。誠ちゃんはいつもどこで食ってんの?」

「教室」

普段自分が居るところから離れて行動しようとすると、学校という閉鎖空間の中ではすぐに行き詰まってしまう。
それぞれの教室には、そこをテリトリーにしている生徒がそれぞれ居るもので、そこへ飛び込んでいくのはなかなか労力の要る事だからだ。

「んじゃアレだ、屋上」

「屋上って立ち入り禁止なんじゃ…」

そう言いながらも、二人はもう屋上へ繋がる階段へと向かって歩き始めていた。

「何言ってんの、立ち入り禁止だから人が居ないんでしょーが」

「まあ、それはそうだけど」

鞄の中で弁当箱がかちゃかちゃと鳴る。
正確には、弁当袋に入っている箸が鳴っているのだろう。
同じように、ペットボトルに入れたお茶も、じゃぽじゃぽと揺れている。
きっと温くなっている。

「あ、誠ちゃん、自販機寄って良い?っていうか寄るけど」

「ん、良いよ」

言うが早いか、礼は自販機へ駆け寄り、すぐに戻って来た。
手には紙パックを持っている。
この学校には、缶やペットボトルの飲み物は売っていない。

階段を昇りながら、誠司が尋ねた。

「で、屋上って入れるのか」

「誠ちゃん行った事ない?あそこ立ち入り禁止になってるだけで、ふつーに内側から鍵開くんだよ」

立ち入り禁止と書かれたプレートの下がるロープを跨いで、更に階段を昇る。
窓から差し込む陽射しに照らされた暗い色の鉄扉が、その先に見える。

銀色のノブには確かに、鍵がついていた。
鍵穴ではない、回すだけで開いてしまうツマミ式の鍵だった。

カチャンと、あまりに呆気なく施錠は解かれた。

「ね、開くっしょ?あ、誠ちゃん。念のためだけど、そこの窓の鍵開けといて」

「は?」

「悪戯で閉められたら堪ったモンじゃないじゃん」

礼の意外な用心深さを目の当たりにして、誠司はまた少し驚いた。
 
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