トライアングル
「さっきと同じ質問するけど、良い?」
屋上の床にぺたりと座って、鞄から弁当袋を取り出しながら礼が言った。
同じようにして、誠司は答える。
「そのためにこんなとこまで来たんだろ」
「まあねぇ。で、誠ちゃんは半沢さんのどの辺が良いの?」
誰も居ないからか、礼は半沢蛍子の名前を出した。
「どの辺…」
「さっきもそう言ったまんま黙ったよね」
礼は紙パックにストローを突き刺した。
一口啜ってから、フォークで玉子焼きをつつく。
「ちょっ…」
「んぁ?」
「何で牛乳?」
「何でって、普通じゃね?」
「いや、牛乳で飯が食えるとか信じられない。お茶か水だろ」
「ウチは牛乳なの、小さい頃から!いーから答えてよ」
素で引いている誠司に、礼は無理矢理に話を戻した。
信じられない、ともう一度呟いて、ペットボトルに入ったお茶をあおってから誠司は答えた。
「積み重ねだよ」
「積み重ね?」
礼は繰り返した。
「例えば、美人だからとか、性格が良いからだとか、気が合うだとか、そういうはっきりした芯がある訳じゃなくて」
「うん」
「色んな要素があって、それが全部集まってあの人だから」
「そのものが好き、ってこと?」
礼は牛乳を啜る。
乳脂肪分が高い、濃いめのものが好みの礼には、自販機の牛乳は物足りない。
瓶で売っている、ナントカ牧場などと書かれているようなものが好きだった。
この牛乳に生クリームでもぶち込みたい、もちろん、動物性の生クリームを。
真剣に話を聞く傍ら、どうでもいい事を考える。
もしかしたら、真剣に聞く気など無いのかと、礼は自分を疑う。
「そのもの…うん、多分、そういう事だと思う」
誠司は照れるでもなく、一つ一つを噛み締めるように言葉を零す。
可愛いと思った子と何となく付き合って、何となく別れたりしている礼とは、明らかに違う恋愛をしている。