悲愛日記
いつものように屋上でそうしていたら、白衣を纏った男の人がやってきた。
「…………伊東、莉子ちゃん…だね?」
名前を呼ばれて驚いて顔を上げると、男の人が私の目の前に立っていた。
「……は、い」
男の人はチラリ、と私が膝に置いているノートを一瞥してから口を開いた。
「私は……祐の、父親だ」
ビックリして目を見開く。
「……祐、の?」
すると__________祐のお父さんは、祐そっくりの笑い方で微笑んだ。
でもその顔は疲労で滲んでおり、クマもはっきりとついている。
「こんな可愛らしい彼女がいたなんて……。そのノートに書かれてあることを見るまで何も知らなかったよ」
もうノートを見たかい?と聞かれ、力なく首を振った。
私より親であるこの人の方が辛いはずなのに……笑ってる。
「そうか…。いつか、気持ちの整理が付いたら読んでやってくれないかな。祐も、それを望んでると思うから…」
「………はい」
私はただこう答えるだけで精いっぱいだった。
チラリと祐と似ている祐のお父さんを見ると、胸のところには内科医消化器官と書かれた名札をつけていた。
私の視線に気づいただろうお父さんは、もう一度笑って説明してくれる。
「私、医者なんだ。……でも、恥ずかしいことに外科じゃないから、祐が勤務している病院に運ばれてきても何もできなくてね。実の息子が苦しんでいるときに、ただ見てるなんて…。何のために医者になったか分からなくなってしまったよ」
…………何で、本当に笑えてるんだろうか。
辛いのに、大人は泣けないのだろうか。
私は今にも涙が零れそうだというのに。