LB4
「もーなにこれマジ意味わかんない」
高校数学って、これから生きていく上で必要なの?
美容師を目指している私には、絶対に必要ないと思うんだけど。
やる意味あるの?
もうこのままわかりませんでしたって言って藤川に出してしまおうか。
という考えが頭には浮かんだが、とりあえず教科書を見ながらやっていく。
答え合わせは藤川がやるらしいから、とにかくあたしは『課題をやり遂げた』という事実さえ手に入れればよい。
「えみってほんと理系オンチだよな」
右横から田中の余計なチャチャが入る。
この教室には今、こいつとあたししかいない。
「勝手に名前を呼び捨てにするな」
あたしはノートや教科書とにらめっこしたまま、自分の主張だけは声に出しておく。
つーかなんで田中が残ってんの。
さっさと帰れよ邪魔で数学が終わらない。
もうシカトしてやろう。
「いいじゃん名前くらい。俺たちそのうち付き合うんだし」
「はあっ?」
想像すらしていなかったことを当然のように言うから、さすがに反応してしまった。
付き合うって何?
田中はこちらを向いて座り、右肘を机について、不敵な笑みを浮かべている。
野球で鍛えた逞しい彼の右腕が、夕日に照らされて輝いて見えた。
「バカじゃん。うちらが付き合うわけないし」
「いや、付き合うね」
「何の予知? 頭おかしいんじゃないの?」
あたしは田中なんて好きじゃないんだから付き合うわけがない。
変なやつだと思ってはいたけど、ここまでとは。
「おかしくねーよ。俺ら、もう付き合ってもいいくらい仲いいし」
「あたし、あんたと仲良しだなんて少しも思ったことないんだけど」
「休みの日に学校の外でも会ってんのに仲良くないって思う方が頭おかしくね?」
そんなの、たまたまみんなと一緒に遊んでる中に田中がいるだけじゃん。
「だとしても、あたしあんたのこと好きじゃない」