LB4
よかった。
田中は私を嫌いになったわけじゃなかった。
安心した自分が恥ずかしくて顔がかあっと熱くなった。
きっとすごく赤くなっている。
この部屋が暗くてよかった。
田中は携帯を見て固まっているあたしの耳に手を添え、息だけで囁いた。
「押してダメなら引いてみろって言うじゃん?」
パッと田中の方に顔を向けると、顔が至近距離にある。
「今までウザいくらいに構ってきたから、いったん無関心を装ってみた。でも、やっぱ無理」
手を添えて話さなくても、小声は座席までは届いていないようだった。
このままクラスの誰にも気付かれることなく、キスできそうなシチュエーション。
意識をすると本当に田中の顔が近づいてきて、あたしはギュッと目を瞑る。
もしかしたら、これがあたしのファーストキスに……
チュ
田中の唇が、とても小さな音を立てて、そっと離れていく。
その直後、右の頬、唇ギリギリのところに湿り気を感じた。
ファーストキスには、ならなかった。
ならなかったのに、死ぬかと思うほど胸がぎゅううぅぅっと締め付けられた。
「付き合うようになったら、ちゃんとここでしような」
言って、親指でそっとあたしの唇に触れる。