LB4
そんな彼女に惚れたのは、その翌日。
「相澤さん。昨日の商談、契約取れました」
俺がそう報告した時だ。
いつもキッとつり上げている目と眉がフワッと降りて口角と頬骨がキュッと上がり、般若のように恐ろしかった彼女の顔が、にっこりと優しい笑顔になった。
その顔が、この世のものではないのではないかってくらい、可愛かった。
美しかった。
嬉しかった。
天女が舞い降りたかと思った。
「よかったな! おめでとう!」
ちょっと乱暴にギュッと抱き締められて、ふわっと香った女の人特有のいい香り。
意識せざるを得ない、乳房の感触。
それはほんの一瞬だったけれど、俺の心を奪うには十分すぎるほどの刺激になった。
「あっ、ありがとうございます!」
「よっしゃ飲みいくぞ! お祝いだ!」
「はいっ! ありがとうございます!」
彼女は、俺をいびっていたわけじゃなかった。
チキンな俺を、ちゃんと鍛えくれていたのだ。
それがわかって、ますます好きになった。
とにかく怖かったから、それまでは彼女がすごく大きく見えていたけれど、並んで歩くとヒール靴でも俺より小さいことに気付き、驚いた。
目を覆う長いまつげや小さい鼻、リップでぷるぷるに仕上げられた唇など、全てが愛らしい。
「いいことがあった日のお酒は美味しいの」
会社では大体男言葉だけど、酔うとたまに女口調になるのがたまらない。
それが聞けたときは、その日がとてもいい日だと思える。
今は右も左もわからないヒヨッコだけれど、この人に男として見られたい。
この人が欲しい。
そのために、早く一人前になりたいと思った。
だけど……
「いるよ、彼氏」
誰かに先を越されていた。