LB4



先に手を出したのは俺の方だ。

タマを潰されるのを覚悟してキスをしたら、彼女は潰すどころか軽く喘いで俺に応えた。

2年以上の付き合いの中で一度も見たことのなかった“女の顔”で見つめられると、あまりの色っぽさに鳥肌が立って、たまらなくなった。

どんどん止まらなくなって、彼女も拒否はしなくて。

『彼氏がいるくせに』

そう思いながら、己の欲に身を任せた。

素晴らしい夜だった。

ぬるい恋愛ばかりしてきた俺史上、最も刺激的で幸福な一夜だった。

たとえ嵐の夜の幻と化しても、何もないよりはずっといい。

素敵な思い出をありがとう。

心の中で感謝をして、以降は何事もなかったかのように振る舞おうと心に決めた。

きっと彼女だってそれを望むはずだと思った。

……しかし。

翌日、会社での彼女は、明らかに様子かおかしかった。

ボーッとすることが多く、仕事がなかなか進まない。

視線がやけに俺の方を向いている。

ぼんやり見つめては軽いため息をつく。

もしかして、俺と寝たことを悩んでる?

彼氏のことを思って、後悔してる?

バレたらどうしようって、怯えてる?

はじめはそうネガティブに捉えていた。

しかし、彼女の表情や仕草で、だんだんわかってきた。

彼女はただ、照れているのだと。

まるで男性経験の乏しい少女が、己の行為に恥辱を感じてあたふたしているよう。

彼女の年齢やキャラから、勝手に経験豊富なのだろうと推測していたが、実はとてもウブな人なのかもしれない。

「ああっ! もうダメだ」

彼女が突然そう言って、デスクに頭を突っ伏した。

「えっ? ちょっと、大丈夫ですか相澤さん」

こんなになるまで俺のことで頭をいっぱいにしてくれているのがわかって、言葉とは裏腹にものすごく嬉しい。

もっと俺のせいで狂えばいい。

自然と顔が緩んだ。


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