T&Y in神戸
「お帰りなさいませ。」
屋敷の玄関で安西に迎えられ、春用コートとマスクを外して手渡す。
「ただいまーーー由香利は?」
安西は応えに階段を見上げ、二階からぱたぱたとスリッパの音が聞こえてくる。
「たあちゃんっ!!」
お帰りなさいと、いつもよりテンションの高い由香利が、飛ぶように階段をおりてくる。
暖かくなり、パジャマ代わりのスウェットが、春らしい軽い素材のボタンのものに変わった。
由香利いわく、かなり女子力が上がった結果らしい。
駆け寄る由香利が射程距離に入るのを待ち構えて腕の中へ囲い混む。
時間はとうに23時を過ぎているにも関わらず俺の帰りを待ってくれていた。
「ただいま。」
「お帰りなさいーーー。」
腕の中で顔を上げた由香利に唇を重ねる。
「お食事は如何なさいますか?」
慣れとは怖いものだ。
最中にも関わらず、淡々と仕事をこなす安西。
由香利だけは未だに慣れないのか、唇が離れると直ぐに顔を隠すように胸に顔を埋めてくる。
シャツを通して掛かる由香利の息に胸が高鳴る。
頭上に唇を寄せ、抱き締める腕に力を込めるーー…こんなに愛しい存在を片時も離す事が出来ない。
「今夜はもう、休む。」
安西にそう伝えると、由香利が弾かれたように顔を上げた。