きみのふいうち

「花南さん?」

驚いた表情のままにわたしの名前を呼んだのは、暁くんだ。
そして暁くんの隣にいるのは、わたしの知らない女の人。

……きれいな人。
肩先の長さで揃えられた癖のない艶やかな黒髪は、触れずとも品のいい柔らかさを想像させる。

意思の強そうな瞳に、少しばかりつりがちの眉。
はっきりとした顔立ちは整っていて、すらりと背も高いから、まるでモデルみたい。

「……暁くん」

思わず名前を呟くと、彼は微かに笑みを浮かべた。

そのまま近づいてくるような仕草を見せたように思えたけれど、わたしの向かいに座る桐原くんに気づいたようで、一歩進めた足を止めた。

「あれ、確かこの前の研修のときの……」

向かいで桐原くんが呟いた。
けれどその言葉は暁くんには届かなかったらしい。

なんだか少し困ったような顔をした暁くんは、一瞬の逡巡の後、軽く手をあげてわたしに挨拶をすると、隣の彼女と店の奥に消えていってしまった。


……え。
今のって、わたしと桐原くんのこと誤解した?

いつもの暁くんなら、偶然だね、くらいの声はかけていくのに。桐原くんと一緒だったから遠慮したの?

……っていうか。
もしかしなくても、あのきれいな人が暁くんの彼女、だよね……?

「今のって、この前研修に来てた人だよな?めっちゃ話上手くてすげーなって思ったの覚えてる」

暁くんを追っていた視線をわたしのほうに戻しながら言った桐原くんは、悪気なく言葉を続ける。

「イケメンだし優しそうだし、絶対モテるだろうなとは思ったけど、やっぱ彼女いたんだな。しかもすげー美人」
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