きみのふいうち

「桐原くん!明日も仕事なんだから、遊んでないで早く帰りなよ」

慌てて後を追いながら言うと、桐原くんは馬鹿にしたような目でわたしを見た。

横に並んだわたしに向かって、はぁ、と大きなため息。

なんなの。

「こんな人通り少なそうな道、ひとりで帰らせられないと思ったんだよ。その優しさを、遊んでるって……」

呆れたように言った桐原くんの言葉がすぐには理解できなくて、少し遅れて意味を呑み込んだわたしは、驚いて目を瞠った。

そんなわたしの反応に桐原くんは眉をひそめ、再びため息をこぼす。

「なに、その顔。そこまで驚かれるといっそ腹立つんだけど」

不機嫌そうにそう言われて、わたしは慌てて口を開いた。

「いやいや、だって驚くでしょ!今日よりよっぽど遅い時間の解散のときだって、送ってくれたことなんかなかったよね!?」

「いつの話をしてんの。そんなガキの頃の話持ち出されてもね」

心外だとでも言いたげな桐原くん。

わたしの中ではまだ大学生だったころの桐原くんのイメージが強いから、そう言われてもいまいちピンとこない。

大体、夜道を送っていくのなら大学生の頃から実践してもらいたかったものだけど……、まぁそれはいいとして。

「ありがとね、気持ちだけ受け取っておく!この道、見た目ほど人通りが少ないわけじゃないよ。ひとりで帰れるから、大丈夫!」
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