きみのふいうち
わたしの言葉には何の嘘も遠慮もない。
普段から外食の帰りは決まってこの道を使っているけれど、本当にほどほどに人通りのある道なのだ。
確かに少し細い道に見えるかもしれないけれど、駅前のにぎやかな飲食店街と静かな住宅街をつなぐからか、通勤通学に使う人も多いし、車の往来も盛んで街灯も多く、暗さもあまり気にならない。
だけど、桐原くんはわたしの言うことを聞いているのかいないのか。
「こういうときは、素直に一言、ありがとう、のほうが感じいいぞー」
わたしの家なんて知らないくせにズンズン歩きながら、ちらりとわたしに視線を向けてのんびりとした口調で言う。
大学生の頃は送ってくれる流れになんてなったことがなかったから、驚いたのはもちろんだけど、はじめての気遣いが少しうれしかったり。
「……じゃあ、ありがとう」
「じゃあは余計! まったく、花南って実は強情なとこあるよな。見かけによらず」
「ごめんねー、可愛げなくて」
「誰も可愛げないなんて言ってないだろーが」
……あー、なんかすごい懐かしいなこの感じ。
ゼミの皆で夜までわけのわからないレポートをやって、そのまま皆でご飯食べに行ったりしてたなー。
なんか、その帰り道って感じだ。今。
軽い会話が心地いい。
気楽で、会話の中身に意味なんかない。
何を話したかなんて、明日になったら忘れることが前提みたいな、そんなやりとり。