きみのふいうち
「あ、わたしの家、ここなの」
他愛ない会話を交わしているうちにわたしのアパートの前にたどり着いた。
住宅街の一角に建つアパートは白い外壁がまだ真新しさを感じさせる、築5年の2階建。
間取りがファミリー向けではないから、住人はわたしと同じような独り暮らしや若い夫婦、カップルが多い。
「へー、いいとこに住んでるじゃん」
アパートを見上げて言った桐原くんに、でしょ、と笑ってみせる。
清潔感のある外観はもちろん、立地や間取りも住みやすくて、わたしもなかなか気に入っているから。
「じゃあ、また」
「あ、うん。気をつけて帰ってね」
あっさりとわたしに背を向けた桐原くんを見送ろうとしたときだった。
ポツリと、一粒の水滴が頬に当たった。
そして、どうやらそれを感じたのはわたしだけではなかったようだ。
来た道を戻ろうとしていた桐原くんが、眉根を寄せて振り向いた。
「……傘、貸すね」
わたしの言葉に、桐原くんは少しばつが悪そうに、悪いな、と笑った。