きみのふいうち
しかも、声の主は暁くんだ。
反射的に振り返ったけれど、彼の姿が視界に入った途端、わたしの胸をぎゅっとした痛みが走る。
微かに顔をしかめてしまった自覚があったけれど、暁くんは気付かなかったようだ。
「話し中にごめん。ちょっと確認したいことがあるんだけど、いいかな?」
わたしに向かってそう言った暁くんは、いつもと変わらない態度。
「あ、うん、大丈夫。井倉ちゃん、続きはまた今度ね」
はーい、という井倉ちゃんの返事を聞きながら、歩きだした暁くんに付いていく。
昼休みに仕事の話なんて、めずらしいな。
期限が厳しい仕事があるとき以外は、暁くん、休むときはきっちり休む方なのに。
そんなことを考えながら暁くんの背中を見ていると、なんだか唐突に泣きたいような気持ちになった。
あー、もう、やっぱりだめだ。
暁くんと一緒にいると、昨日のきれいな彼女の姿が脳裏に浮かんでしまう。
仕事に私情を持ち込むのはいけないとわかっているけど、昨日の今日で気にしないようにするのは難しいよ。
はぁ、とこっそりため息をついて、自分のなかのもやもやを吐き出そうとするけど、ほとんど効果はない。
暁くんについてミーティングスペースにたどり着いても、胸の奥はズンと重いままだった。