きみのふいうち
少しばかり躊躇いを見せた暁くんが口を開き、その声に滲んでいたのはどこか戸惑うような響き。
「さっき、彼、来てたよね」
「彼? ……って、もしかして桐原くんのこと?」
傘を返しに来てくれていたのを見ていたのだろうと合点がいって訊ねると、暁くんは微かな笑みを唇に乗せてうなずく。
その表情の意味がわからない。
どうしてそんな、寂しそうな表情をするの?
「昨日も一緒にいたよね。……やっぱり付き合うことになった?」
相変わらず寂しそうな顔をしたまま発せられた言葉を、わたしは信じられない気持ちで聞いた。
「どうしてそうなるの? この前、桐原くんとはそういう関係じゃないって言ったのに……、信じてくれてないの?」
「この前は元カレじゃないっていう話だったから、もしかして再会して付き合うことになったのかと……。でも、今の花南さんの反応で勘違いだってわかった。変なこと聞いてごめん」
気まずそうにそう言った暁くんに、わたしは心臓がどうしようもなくぎゅうっと締め付けられてしまう。